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伊丹簡易裁判所 昭和42年(ろ)6号 判決 1967年11月20日

被告人 伊藤敦 松室猛

主文

被告人等はいずれも無罪。

理由

被告人等に対する本件公訴事実は別紙公訴事実記載のとおりであり、これに対する弁護人の主張は、別紙弁論要旨記載のとおりである。

しかして、検察官提出の証拠を綜合すると、以下の事実、すなわち、(被告人らは、昭和四一年八月一八日告示、同月二八日施行の川西市長選挙に際し、同選挙に立候補した伊藤龍太郎の選挙運動者であるが、右候補者の選挙運動のために使用する公職選挙法一四三条一項五号のポスター(以下、五号ポスターという)を作成、掲示するに当り、互いに共同して、二枚を一組に掲示してそれが一体と見えるようなポスターを作ることを計画し、西宮市津門稲荷町所在塚田印刷株式会社をして、規格内の長さ約四一・五センチメートル巾約二八センチメートルのポスター一、二〇〇枚のうち、二五〇枚(以下、(一)のポスターという)には、それぞれ、その右側に縦書きに「いとう」の文字を、その左端中央部に同候補者の向つて右側半分の顔写真を、それ等の上部には左側から横書きに「市長候補」の文字を一番下部に左側から横書きに掲示責任者及び印刷者の氏名(名称)及び住所(所在地)を各印刷させ、他の二五〇枚(以下、(二)のポスターという)には、それぞれ、その右端中央部に同候補者の向つて左側半分の前記同様の大きさの顔写真を、その左端に縦書きに「伊藤龍太郎」の文字を、それ等の中間下部に縦書きで同候補者の略歴を、一番上部に左側から「四選阻止」の文字を、一番下部に(一)のポスター同様掲示責任者及び印刷者の氏名(名称)及び住所(所在地)を各印刷させ、もつて、(一)、(二)のポスター各二五〇枚あて合計五〇〇枚を作成し、これ等に川西市選挙管理委員会の検印を受けたのち、長さ約四二センチメートル余、巾約五六センチメートル余の板に(一)のポスター一枚を右側に、(二)のポスター一枚をその左側に組み合わせて貼付し、昭和四一年八月一八日川西市出在家字高関日之出駐在所横関電々柱一九号附近等九〇ケ所(別紙掲示場所一覧表記載の通り)に使用人をして掲示させた)ことが認められる。

検察官は、右認定の被告人等の行為、すなわち、(一)、(二)のポスター各一枚あてを一枚の板に左右組み合わせて掲示した行為をもつて、同法一四四条三項の規定違反の五号ポスターの掲示行為であり、したがつて、その処罰規定である同法二四三条四号に該当するものであるというのであるが、これに対して、弁護人は右掲示行為をもつて右罰条の構成要件に該当しない。旨争うので、まず、この点について判断を加える。

ところで、同法一四四条三項は「前条一項五号のポスターは、タブロイド型(長さ四二センチメートル、巾三〇センチメートル)を超えてはならない」と規定して、五号ポスターの大きさをその規制の対象とし、同法一四三条一項五号は、五号ポスターについて、該ポスターは「選挙運動のために使用する文書図画のうち同項一号ないし四号に掲げるものを除く外、選挙運動のために使用するポスター」なる旨規定し、また、これが処罰規定である同法二四三条四号は「同法一四四条の規定に違反して文書図画を掲示したものを処罰する」旨規定しているのである。以上の規定からみると、右罰条は同法一四四条三項所定のタブロイド型を超える五号ポスターの掲示行為をその構成要件事実とするのであつて、これを換言すれば、掲示される五号ポスターはタブロイド型を超えてはならない旨の同法一四四条三項の制限規定を受けて、右規格以上の大きさの五号ポスターの掲示行為を処罰の対象とする旨を明示しているのみであつて、この罰条にも、さらには、同法一四四条三項にも、直接、果して、五号ポスターの何枚の大きさがタブロイド型を超えてはならないかについてのなんらの規定をも設けていないのである。そこで、考察の手掛りとして、同法一四四条三項において大きさの規制の対象とされている五号ポスターの意義について考えてみると、この五号ポスターは、前記のとおり「選挙運動のために使用するポスター」であることを要するものであるところ、この選挙運動のために使用するポスターであるとするためには、そのポスターがその記載内容からみて客観的に選挙運動のための使用にたえうるもの、すなわち、社会通念上、選挙運動用ポスターとしての独立した効用を発揮するものであることが必要であり、かつ、これをもつて足りると解せられ、したがつて、一枚のポスターにあつても、それがかかる独立の効用を有する限りその大小にかかわらず、それ自体、五号ポスターと認められることもとよりであるが、このような独立の効用を有しないものは、その大きさ及び枚数のいかんを問わず五号ポスターということができず、それらが組み合わされて全体として前記独立の効用を有するものと認められるに至つて、初めて、その全体としてのポスターが五号ポスターとして右規制の対象となるものと解するのが相当である。そうだとすると、同法一四四条三項は、選挙運動用ポスターとして独立した効用を有すると認められる最小の一単位のポスターの大きさをその規制の対象としたものであつて、常に、必ずしも、物理的な意味の一枚のポスターに限定されるものではなく、二枚またはそれ以上が組み合わされて一体となり、それによつて初めてそれが社会通念上選挙運動用ポスターとしての独立した効用を発揮するポスターと認められるようなものであれば、かかる一体となつた複数のポスターが全体として同条項による規制の対象となるのであり、たとえ、一枚一枚のポスターが右規格範囲内のものであつても、全体として右規格を超える場合にはかかるポスターの掲示は同条項の規格違反ポスターの掲示として同法二四三条四号の構成要件に該当するのであるが、しかし、また、前示のとおり、一枚のポスターがそれ自体独立した効用を有する場合には、該ポスターは五号ポスターとしての右制限に服するのであつて、かかるポスターがかりに二枚ないしそれ以上を組み合わされて掲示され、それが全体として一枚一枚のポスターとは異つた新たなる意味内容を表現した場合にあつても、この組み合わされたポスターを全体として右規制の対象とし、右規格違反の五号ポスターであるとしてその掲示行為を右罰条をもつて処断することは許されないのである。そこで、以下、本件について考察する。本件(一)、(二)のポスターの内容は、前示認定のとおりであるところ、これらのポスターには、それぞれ、同候補者の顔半分のみが印刷されているに過ぎず、この両者を左右に組み合わせて初めて一個の顔写真として完成されるものであること、(二)のポスターには四選阻止の文字の記載があるが、(一)のポスターとは異り、市長候補などの文字の記載がないこと等を考慮に入れても、なお、(一)、(二)のポスターは、その記載内容からすれば、それぞれについて、川西市長選の選挙運動用ポスターとしての独立した効用を有するものと認めるのが相当であるから、これらポスターはその一枚一枚について独立して同法一四四条三項の規則の対象となる五号ポスターであるというべきであつて、(一)、(二)のポスター各一枚あてを組み合わせてこれを掲示したとしても、この二枚一と組みを全体として同条項の規制の対象とすべきではないから、タブロイド型の規格範囲内の(一)、(二)の各ポスターを単独で掲示することはもとより、これらを前示認定のとおり左右各一枚あて組み合わせ、これを一体として掲示し、それによつて、規格以上の大きさのものとなつても、これらの掲示をもつて、同法一四四条三項違反の五号ポスターの掲示ということはできず、したがつて、右違反ポスターの掲示の処罰規定である同法二四三条四号の構成要件には該当しないものというべきである。そうだとすると、(一)、(二)のポスターを各一枚あて組み合わせ、これを一体として前示認定の各場所に掲示した被告人等の行為を訴追する本件被告事件は結局罪とならないので、弁護人のその余の主張について判断を加えるまでもなく、刑事訴訟法三三六条前段を適用して、被告人等に対していずれも無罪を云渡すべきものとして主文のとおり判決する。

(裁判官 西川太郎)

(別紙)

公訴事実

被告人らは、昭和四一年八月一八日告示、同年八月二八日施行の川西市長選挙に際し、立候補した伊藤龍太郎の選挙運動者であるが、両名は共謀のうえ、規格内のポスターに候補者伊藤龍太郎の顔写真半分ずつを印刷して二枚を一組に掲示してそれが一体と見えるようなポスターを作ることを計画し、規格内の長さ四二センチメートル、幅三〇センチメートルのポスターにうち一枚は「市長候補いとう」の文字と伊藤龍太郎の左半分の顔写真、他の一枚は「四選阻止伊藤龍太郎」の文字と伊藤龍太郎の右半分の顔写真を印刷し、それぞれ二五〇枚宛作成し、川西市選挙管理委員会の検印を受けたのち、長さ四二センチメートル余、幅六〇センチメートル余の板に右ポスター二枚を組合わせて貼付し、昭和四一年八月一八日、川西市出在家字高関日之出駐在所横、関電々柱一九号附近等九〇ケ所(別紙掲示場所一覧表記載の通り)に使用人をして掲示せしめ、よつて二枚を一体とした規格外の選挙運動用ポスターを掲示したものである。

掲示場所一覧表<省略>

弁論要旨<省略>

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